4 森浩一「食の体験文化史」
  [初出] 2003.10.22  [最終更新]  [平均面白度] 4.83  [投票数] 6  [コメント数] 0
食に関する本はいろいろ読んだが、現時点でいちばん面白いと感じたのが森 浩一「食の体験文化史」だ。

著者の森 浩一は考古学の泰斗として有名な人だ。私は講演会などでなんどかお顔を拝見したことがある。あんなにキラキラした目をしたおっさんを、私は他にしらない。好奇心があふれまくっているんだろうと思う。

十数年前、ふと当たり前のことに気がついた。高校の日本史の教科書や考古学の概説書では“縄文人は貝をよく食べました”と書いてある。それに、シカやイノシシ、魚などもたくさん食べたと書いている。この場合、“よく”とか“たくさん”というのは何を基準にしてのことかという疑問である。


まわりの考古学者に「一年間に貝は何回ぐらいたべているか」と聞いても曖昧な答えしかかえってこない。そりゃそうでしょう。私だって、この一年に貝を何回食べたか、答えることはできない。もちろん貝以外のほとんどのものはそうだ。マツタケ(1回)、フグ(0回)なんてのはかろうじてわかるけど、逆に「よく食べている」ものの回数はまったく不明だ。

そこで著者は毎日食べた食材の記録を始めた。何を食ったかの記録は何も珍しいものではない。これを付けている人は少なくないし、Web上でもその手の「日記」はよく見かける。森式の日記のユニークなところは、それが統計処理されているところだ。何を食ったとか、うまかった・まずかったではなく、年間通して何回食った、と年単位で集計されている。さすが、考古学者。

その記録が20年分あるという。その中の最近の数年のデータを下敷きにして、いろいろな食品をテーマにあげ、専門の考古学から得た知識、歴史学の知識(ここも専門分野と言っていいだろう)などをたっぷり加え、それに著者自身の日常をさくっと混ぜ合わせたエッセイになっている。

たとえば豆腐の章。麻婆豆腐とのはじめての出会いから筆を起こし、中国の成都で食べたそれについての思いでになる。続いて毎年の豆腐をたべた回数(94年122回、93年168回など)が記され、そのあと、伊賀での思い出や、豆腐作りの様子が記された中国の古墳の壁画の話などとつながっていく。

豆腐に関する文化史的な側面だけではなく、また、逆に日常雑記個人的な思い出だけに終始もしない。その塩梅具合が実に楽しい。

で、各章のおしまいには「今月食べたうまいもの」として、こまごまといろいろなものが列記してある。だれそれから貰ったなになにとか、どこどこ食堂で食べたなにとかいう具合で、はなはだそっけない箇条書きなんだけど、それがかえって楽しい。

この本は「中央公論」に連載されたものが1年分ずつの3冊本としてハードカバーで出版され、後に中公文庫2冊となった。ハードカバーの最初の巻がでたのが1995年、文庫化が1999年なのだが、もはやどうも文庫は品切れ状態になっているようだ。逆にハードカバーはまだ現役。

刊行後、それほど時間が経っているわけでもなく、内容はこんなに面白いのに、惜しいことだ。

アマゾンへの各エディションのリンクは以下の通り
ハードカバー
食の体験文化史1,400円
食の体験文化史 21,400円
食の体験文化史 31,500円

文庫
食の体験文化史762円
続・食の体験文化史857円

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