2 トウガラシと梅毒の伝搬速度
  [初出] 01.06.02  [最終更新]  [平均面白度] 3.89  [投票数] 9  [コメント数] 0
韓国と聞いて思い出す食材はトウガラシだ。同様に、ドイツと言えばジャガイモだし、イタリアならトマトってことになる。

しかし、これらはすべてアメリカ大陸が原産である。つまり、旧世界には1492年までは知られていなかったことになっている。

それから600年もたたないうちに、その国を代表する食材のようになってしまうのだから、ホント、食の伝統なんてもんはうつろいやすい。

それにしても、新大陸起源の農耕植物はスター級揃いだ。ジャガイモ、トマト、トウガラシの他にも、トウモロコシ、サツマイモ、カボチャがある。それに、日本では一般的ではないがキャッサバという木性のイモがある。これはインドやアフリカなど熱帯で主食として広く栽培されている。

いま、キャッサバは日本では一般的ではないと書いたが、ぼくらはそれを一度は食べている。それは「タピオカ」だ。タピオカはキャッサバの根(イモ)の澱粉を粉にして作ったものだそうだ。

タピオカは、ぼくにとって数少ない“キライ”な食べ物のひとつだから、まったくもって関心がないが、それにしてもアメリカ大陸出身の食材がなければ、一体全体現在の人類はなにを喰うのだ、といいたいくらい、主力の食品がそろっている。

さて、トウガラシであるが、日本への伝来について、前回は小学館の百科事典を引用したが、今回は例によって、平凡社のもので見てみよう。
トウガラシの日本渡来の時期について, 江戸時代には三つの説があった。 第 1 は 1542 年 (天文 11) ポルトガル人が伝えたとするもの (佐藤信淵など), 第 2 は 1605 年 (慶長 10) とする説 (橘南谿 (たちばななんけい) など), 第 3 は秀吉の朝鮮出兵,つまり文禄・慶長の役 (1592‐98) の際, 種子を持ち帰ったとするもの (貝原益軒など) であるが, どうやら第 3 説が正しいようである。 トウガラシの語が見られるのは《毛吹草》(1638) あたりからであるが, 《多聞院日記》文禄 2 年 (1593) 2 月 18 日条には, 明らかにトウガラシである物がコショウとして記載されている。 それは,コショウの種と称する物をもらったというのだが, その種はナスの種のように小さく平らで, 赤い袋の中にたくさん入っており,その袋の皮の辛さには肝をつぶしたというのである。 また,〈コセウノ味ニテモ無之〉といっており, まさしくトウガラシであるが,まだ和名がなく, コショウの名が借用されている。 以上のようなことから,トウガラシは文禄の役当時に朝鮮から将来されたと断定できると思われる。 その後,たちまち商品作物化されたようで, 前記《毛吹草》にはすでに伏見稲荷付近の特産品とされている。 やがて,《大経師昔暦(だいきようじむかしごよみ) 》(1715) が〈本妻の悋気 (りんき) と饂飩 (うどん) に胡椒 (こしよう) はお定り〉というように, うどんの薬味はコショウと決まっていたが, トウガラシがとって代わるようにもなった。 こうして急速に普及し定着した理由は, しょうゆやみそとの相性がよく,米飯中心の食事体系に適合したためである。 なお,長崎ではトウガラシをコショウと呼んだが, これは中国船と交渉の深かった長崎の役人たちが〈唐枯らし〉に通じる音をきらったためだという。
こっちが正しいとなると、謙信陣中の糧秣というのはアヤしくなってくる。しかし、「コショウ」との混用誤用については、現在でも沖縄や九州でトウガラシのことを「コショウ」と呼んでいる地域もあることだし、一概にこの記述は信じがたい。

朝鮮においても、トウガラシは日本から伝来したという説があるそうだ。

ともあれ、伝来は“あの頃”であるのはおおむね正しいようだが、謙信自身が経験したかどうかは、不明。

いずれにしても、1492年のコロンブスの航海の後、それがヨーロッパに持ち込まれたとすると、(1)説1542年でちょうど50年、(2)説で113年だから、どちらにしてもすっごく早い。

前回にも少しふれた梅毒の伝搬の方はもっと早く、1493年にバルセロナで流行、94年のフランスのイタリア遠征の陣中でも大流行(フランス人はナポリ病といい、イタリア側はフランス病と呼んだという)。1498年(コロンブスから6年)にはインドへ。1510年ころには中国内陸部に達し、日本には1512年に入ってきたそうだ。この間、たった20年。

もー、ほんとうに、人間ってのはスキねえ、としか言いようがない。ま、これだけのことからだけでも、「民族の純血」だとかなんとかは、不毛な議論だと、わかるのだけれど。
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