18 採尿の苦悩
  [初出] 2003.05.28  [最終更新]  [平均面白度] 0  [投票数] 0  [コメント数] 0
本日は「半日ドック」であった。

自営業であるため、大企業のように会社による健康診断があるわけでなく、病気になっても給料が支給されるわけでもないので、定期的に自腹でドックにかかるようにしている。

ドックでやられることは、べつだんとりたてて痛いわけでも苦しいわけでもないんだけど、毎度毎度ユーウツだ。

その原因の最大のものは検尿だ。

前々日前日と大便を採取しなければならない。前夜から絶食禁水状態になる。で、当日9時に検診場に着くやいなや紙コップを渡されて検尿のための尿の採取をいいつかる。これだ。

日常わたしは朝起き抜けに小便に行く。しばらくして(たとえばコーヒーを飲んで)大便に行く。これは判で押したように毎日同じパターンだ。大便はたいてい1日1回。朝だけ。

であるから、当日の朝、大便を採取するためにも、日常と同じプロトコルを取らないとならない。起きて小便に行き、禁水のためコーヒーなどを摂ることはできないが、そのあと大便に行く。その順番を踏まないと排便できない。しかたがないからそうする。

しかし、その状態だと9時にもういちど小便をしろ、なんて言われてもでるわけないのだ。だいたい前夜9時以降は水も飲んでいない。だもんで小便の原材料の在庫も体内になくなっているのだ。

検診場はドック専門の施設なんだけど、そこには見ず知らずだが同じ目的で集まってきている人々がたくさんいる。みんな同じくらいの時刻に検尿を命じられている。で、みんな何食わぬ顔でそのステージをクリアしていく。

わたしも紙コップを持ってトイレまで行くが、どうやってもでない。いくら頑張ってもでない。仕方がないからカラのコップをもってカウンターで屈辱の報告をする。

「じゃあコップをここに置いといて、他の検診を済ませてください。帰るまでにいつでもいいですから、尿を採取してください」

コップはカウンターのトレイの上に立てられる。

レントゲンだとか採血だとかのメニューの合間に何度かチャレンジするものの、やっぱりダメだ。

カウンターの上にわたしのコップだけが、さびしく放置され続ける。

別に誰が注視しているわけでもないし、誰にあざ笑われているわけでもないのだが、これは心理的な圧迫になる。ヤだなあ、と思う。

例年のことだが、結局採尿できるのは、バリウムを飲んでから。

バリウムを飲んで胃の中身をX線写真に撮影される。これが終わるとコップ1杯の下剤入り飲料を支給される。そしてそこで禁水の掟が終わる。ラウンジにはコーヒーメーカーが置いてあり、そこでコーヒーやお茶を飲んでいい、いやむしろ積極的に飲めと言われる。

ここで水分を摂ることが引き金になるんでしょうねえ。こうなってはじめて排尿感が芽生えてくる。すかさずコップを取る。

バリウムはすべての検診のもっとも最後のメニューである。少なくとも最後のほうのメニューだ。つまり、最初にクリアすべき採尿が、もっとも最後にやっと達成できることになる。

検診の間中、わたしは尿のことをずっと考え続けていなければならない。これがヤなんだなあ。ツラいんだなあ。怏々として楽しめないのである。

そりゃたしかにツマんないことですよ。しかしつまらないからこそ気になるわけで、ツマること、たとえば悪性腫瘍ができているとか、下血が止まらないとかだったとしたら、逆になんていうかな、アドレナリンみたいなのが出てきて、心は臨戦態勢に入る。ツマらないことだから、そこまで熱くもなれずに鬱々とするだけなのだ。

しかもこれを誰かに訴えたとしても、誰も同調してくれない。そうだろう。ドックの当日でも同時受検者数十名のうち、カウンターにコップがいつまでも残っているのは例年わたしひとりである。

わたしはここでも少数者の悲哀を感じる半日をおくることになる。
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