5 余談・電子レンジはいつ頃普及したのか
  [初出] 2003.11.11  [最終更新]  [平均面白度] 3.54  [投票数] 26  [コメント数] 1
ちょっと余談です。

ひとりでおもしろがって、漱石の作品中に見える電燈や水道の記述を追っかけているんですが、そのココロはというと、明治・大正期の生活の「イメージ」を知りたいからです。

歴史年表を始めとするモノノホンにも、一般家庭に配電が始まったのはいつ、なんてことが書いてありますが、これは、言って見れば「初出主義」です。最初の時点。当然のことながら、その時点で一気に普及したわけではありません。

後世のわれわれにとっては、かえってその情報がつまづきの元になってしまいがちです。書物で明治20年に東京で一般家庭に配電がはじまったと書いてあるのを読んだら、うっかり、それ以降は「電燈のある暮らし」が普通になったと思ってしまいがちです。

これまでみてきたように、それから20年たっても、普通の市民の家庭では、かならずしも電燈は当たり前の存在ではなかったということが、漱石の小説から見て取れます。漱石だけではなく、田山花袋の「蒲団」(明治40年)でも全編ランプでした。同じ頃の小説を念のために数作ぱらぱらっと見てみましたが、家庭におけるシーンで電燈の使用はみあたりませんでした。どうも、東京にあっても一般的にはなっていなかったようです。

「初出主義」の記述はキケンであるわけです。

それを実感していただくため、電子レンジを例にひきましょう。なぜ電子レンジかっていえば、その普及時期を「体験している」からです。これなら記憶で補正がききます。

電子レンジが日本ではじめて発売されたのは1961年です。家電の歴史なんかの本では、この年号が記されています。1961年といえば昭和36年。このころ、ないし昭和40年代には、少なくともぼくは電子レンジの存在すら知りませんでした。

だから、昭和40年代を舞台にしたドラマや小説で、電子レンジが登場したら「ヘンだなあ」と思うことでしょう。でも、われわれが死に絶えた後、作成される「時代劇」では、昭和40年の設定で電子レンジが小道具として使われて、だれもヘンだと思わなくなっているかもしれませんよね(まあ、そうなっても別段困ることでもないんだけどさ)。

記憶では、電子レンジの普及は80年代も半ばの頃であったように思うのです。諸兄のご記憶ではいかがでしょうか。

さすがにこの頃になると、資料がインターネットでも平気で手に入ります。消費動向調査(普及率)という政府の統計があります。これで電子レンジの普及率の推移を取りだしてみると、下のグラフのようになります。

電子レンジの普及率の推移

この調査で品目に電子レンジを取り上げるのは1970年からです。この年は発売から10年目になっているわけですが、普及率はたったの2.2%です。100世帯の中で2世帯しかなかったわけで、これじゃ、けっして「普及している」とは言い難い。

普及率が5割を超えるのは87年からです。ぼくの記憶とも合致しています。87年の流行語はゴクミ、アサシャン、ボディコンなど。ま、こういう時代。大韓航空機事件が起こり、石原裕次郎が亡くなり、サラダ記念日が出たのもこの年です。

どうです? この頃、電子レンジ、お使いでしたか?

ちなみに【ことばをめぐる】(02)日本ネーミング年鑑,擬態...というページの記述によれば、見坊豪紀氏の『新ことばのくずかご』に、「チンする」の84年の用例が出ているそうです。

こういう風に思い致すと、その頃の「感じ」が思い出されてきますね。たとえば「明治43年」って聞いた時に、これくらいの「感じ」がイメージできればずいぶん楽しいだろう、と思うわけなのです。

ま、ぼちぼちやっていこうと思っています。
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いただいたコメント

たまのげんたい さんによるコメント
たいへん面白く拝見しました。私も漱石の作品は殆ど読みました。実は私も似たような考察を楽しんでいます。それはテレビで放送されるミステリードラマです。刑事や犯人の使う情報・通信

機器の種類によって、舞台となった時代を推定します。

例えば固定電話しかなかった時代、ポケットベルが若者の小道具

だった時期、自動車電話が登場しステータスシンボルとされた時代、携帯電話が普及し始めた頃、多機能化した携帯電話が行き渡った時期、などです。

それぞれの機器の特性を活かしたアリバイ作り、またそのトリックを崩して行く手法。こんな事を考えながら見ていると、ナルホドと感心する作品、どうも無理だと思うモノ、デタラメだと腹の立つ脚本、があって結構楽しめます。

貴殿の記事に共感を覚え、駄弁を弄しました。[2005.06.20  #188]

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