10 「死守」する
  [初出] 2003.06.19  [最終更新]  [平均面白度] 5  [投票数] 2  [コメント数] 0
昨日、猫が定位置を「死守する」と書いたら、なんと大袈裟な、と言われた。たしかに。

しかし、書いた側の意識としてはこの単語は自然に出てきた。というのも、場所を巡る紛争を日々見てきているからだ。

二匹の猫はどちらも昼間の定位置、夜の定位置を持っている。黒猫のほうが頑固で、いったん決めた定位置を飽きるまではずっと固定的に愛用するが、茶トラのほうは若干フレキシブルで、場所に固執する傾向は少ない。

ぼくの観察によると、場所のネウチの格付けは各人の中にそれぞれ異なったローカルルールが存在するようだ。黒猫の場合は(1)マイブームにより決定された定位置 (2)「世間」でネウチが上がった場所 の順。茶トラは(1)ぼくがいた場所 (2)「世間」でネウチが上がった場所 (3)マイブームにより決定された場所 の順になっている。

茶にとってもっとも価値があるのは、「ぼくがいた場所」である。たとえば、ぼくの椅子。うっかり席を離れると、すぐにそこを占拠する。もちろんそこを奪われると仕事が継続できないから、必要に応じてすぐに追っ払うが、何かの都合で長時間そこを占拠できると、ヤツは非常に満足そうにしている。

両者の間でトラブルの元になるのが「世間でネウチが上がった場所」である。どちらの心理の中でも、相手が座っている場所というのは、とてつもなくイイ場所に見えるようだ。相手がさっきまで座っていた場所が何かの拍子−−たとえば玄関先に宅急便のお兄さんを見に行く−−に空くと、すぐにそこを奪う。奪われた方は、先取権をたてに猛然と奪い返そうとするが、だって場所を捨てた方が悪いんでしょ、というのが入植者の論理である。

彼らの「場所」はスツールとか椅子とか小机とか、とにかく地表面から高い場所にあることが多いので、奪還者の攻撃は不利である。武力によっては奪還が難しいと判断すると、にこやかに近寄っていき、相手の体をなめて友情を示すという作戦に出ることもある。これには相手もむげに敵意をむき出しにはできない。で、地歩を得て、なめてなめてなめまくる。そうされるとなめられる側はうっとうしくなるんでしょう。バトルが再燃するか、もしくはイヤになってその場から立ち去る。いずれにしても攻城戦より、攻め手が有利になる。

場所なんかいくらでもあるんだよ、だいいち先週はここをふたりとも見向きもしなかったじゃないか、とぼくは思うが、ヤツらにはヤツらなりの思想と感情があるのだろう。

黒猫の格付けと茶トラのそれとの間に順序の違いがあるのが、ロッキングチェア占拠事件の遠因になっている。黒にとっては、自分の決めた場所がいちばん大事だ。茶はわりと日和見である。だから茶にとって、自分のいた場所を奪取されるのは、プライドの問題を除けば、本心、そう重大なことではない。しかし、黒は違う。

だから、であるのだろう。特に最近、黒は自分の決めた場所を「死守」する傾向が強くなった。つまり、よっぽどのことがないと、その場所を離れない。

そうした気持ちがいささかでもわかるから、「ちょっとどいてくれ、新聞を読むんだから」と言いづらくなっているわけだ。
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