9 猫は猫連れ
  [初出] 2004.08.08  [最終更新]  [平均面白度] 4.14  [投票数] 7  [コメント数] 0
おこられてもいやがられても偕はコウの後を追う。そんなにいやがられるのなら、こっちへ来ればいいのにと思うが、チャンスがあればついて行こうとする。

それをみて、ふと「ねこはねこづれ」という言葉を口に出した。するとツマが、それなつかしいね、と言い出す。「いぬはいぬづれ、ねこはねこづれ」という言い方が子供時代には時々聞かれたというのだ。

ぼくも同じで、ぼくの子供時代には、年寄りたちが時としてこの言い方をしていたように思う。「類は友をよぶ」とよく似た言葉。同じような連中があつまるという意味だ。ただ、この言葉には否定的なニュアンスはあまりなかったように思う。

聞いた記憶はうっすらとはあるが、自分の口から発したのは、おそらく生まれてはじめてだったのではないか。少なくともここ30年くらいは聞かない言葉だった。

気になって調べてみるのだが、どの辞書を見ても(ことわざ辞典はもってないが)、この言葉はでていない。

言葉というものは、時として非常にローカルなもので、家庭内でしか通用しない言葉も多々ある。たとえばぼくの家では「たまごかけごはん」のことを「ずるずる」と称していた。今考えると、美しくない響きだが、そう称していたんだからしかたがない。「たまご、どうする?」「ずるずるにする」という具合。

かなり成長するまで(おそらくはたちくらいまで)、ぼくはこの「ずるずる」というのが世間で通用する一般の名詞だと思っていた。たまごかけごはんのことがテレビや新聞に登場するわけでもないし、小説で出てくることもない。学校の授業のなかでも登場しない。家庭外で耳にする機会もなければ、とうぜん口に出す状況もない。そんなもんで、この言葉が家庭内ローカル語であることがわからないでいた。

であるから「いぬはいぬづれ、ねこはねこづれ」というのも家庭内ローカルであったのかもしれない。ずるずるが辞書に載っていないのと同様、家庭内ローカル語は辞書に載るわけがない。しかし、それならツマが知っているはずがない。ツマは東京生まれであるから、京都ローカルな言葉である可能性もない。

不審である。

そこで、「づれ」で禁断の後方検索を掛けてみる。むちゃくちゃたくさんのヒットがあるかと思いきや、意外に少なく59ヒット。そこに「牛は牛づれ、馬は馬づれ」という言葉があった。広辞苑には
『類を同じくする者が相伴うことのたとえ。狂、佐渡狐「―と言ふが、こなたも百姓身共も百姓」』
とある。

そういわれてみると、この言葉も聞いたことはある。発したことはないが。いずれにしても、いまや一般には死語化しているとは思うけど、とにかく、辞書的にはこれは存在する。しかも用例の出典が狂言であるから、かなり伝統のある言葉なのだろう。

「牛は牛づれ」の意味が通るなら、「猫は猫づれ」だって意味は通る。しかし、ことわざや成句というのはそういうものではない。どこでどうこんぐらかっちゃったのか。

可能性はいくつかある。

辞書に載るほどではないにしても、この言葉が成立していたと考えることもできよう。親や祖父母の時代は、都会ではすでに牛馬はそう一般的な存在ではなかった。牛は牛づれというより猫は猫づれといったほうがイメージの喚起力は大きくなっていた。そこで、そのように変形した言い方がすでに成立していたという見方。もしこの仮説が正しいのなら、500キロ以上離れたところで育ったツマが知っていたことも、あながち不思議ではない。

もうひとつの可能性は、そんなことわざは存在しなかったというもの。アタマの片隅に「牛は牛連れ」という言葉があって、それからの連想として「猫は猫づれ」というオリジナルな言い方を口にしたというわけだ。口にしたとたんに、記憶がぐちゃぐちゃにかき回され、ちゃんと昔から存在していたような気がしてしまった、と。この仮説にしたがうとツマのアタマの中でおこった過程も同じようなものであったわけだ。

考えにくいケースだが、「猫は猫連れ」が「ちょっとこった言い回し」として語られたのを、ぼくもツマも別の土地、別の時間に聞いていたという可能性もなくはない。たとえば「ひょうたんから駒」という慣用句はある。この慣用句を知っているということを前提に「冗談から駒」というような言い方をする場合がある。たとえば国語のテストなどで[  ]から駒のかっこ内を埋めよという問題で「冗談」と書くと誤りだろうが、「冗談から駒」は日常的にもよく使われている。これは、もとの慣用句をちょっとだけひねった使い方をしているわけだ。

これと同様、猫が猫同士で遊んでいたりするのを見たオトナが、「そりゃ猫は猫づれで、そのほうがいいんだろう」というような表現をしたのかもしれない。当然、そのオトナは「牛は牛連れ」というオリジナルを知っていて、その慣用表現を「ひねって」使ったわけだ。これを子供だったぼくが京都で聞き、子供だったツマが東京で聞いていた、と。

どの仮説が正しいのか、よくわからない。当面はいろんなひとに「猫は猫連れ、犬は犬連れ」という言葉を知っているかどうかを聞いてみるのがいいだろう。

「猫は猫連れ」って知ってます?
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