8 紛争の背後
  [初出] 2004.08.05  [最終更新]  [平均面白度] 4.67  [投票数] 9  [コメント数] 0
ここのところずっと、後楽園のことを不憫に思っていた。かわいそうだな、と。しかし、それは昨日までのこととなった。

新しい猫、偕はいやがられても恫喝されてもしつこく先住の猫たちにつきまとう。後ろから忍び寄っていきなりしっぽに触るとか、移動先へそそくさとついていくとか。それでおこられると、背中まるめたファイティングポーズでぴょんぴょんあとすざりするだけで、すぐにまた攻撃を再開する。

先日、萩は業を煮やしたのか、偕に激しい一撃を食らわした。以来、偕は萩にはビビっているようだ。あまりちょっかいをださなくなった。萩も一瞥で静かに威嚇しておいてから、偕の横を悠然と歩む。

コウはフーフー怒るし、時にはパンチも繰り出すのだが、どうも根が弱気なせいか、実戦経験にとぼしいせいか、迫力がない。少なくとも偕にはそう見切られているのだろう。しつこくしつこくつきまとう。

新参者に追われる毎日であったのだ。

最近では間合いをつめられて、ほんの数十センチのところに座っているのを黙許しているようなこともあるようになった。偕はそこに座ってコウの出方をうかがっているのだ。安易に動こうものなら、背後からちょっかいをだしてやろうという作戦。

実戦経験が少ないといっても、体重は3倍ある。本気の一撃を繰り出せば、ヒヨコの偕なんてひとたまりもないだろう。それをしないのは、幼い者にはホンキをだしてはいけないというルールを墨守しているせいではないか、と(こちらは勝手に)考え、それもまた不憫であるなあ、と思っていたのだ。

疲れを知らないこどものように、という歌詞があったが、疲れをしらんのは子供ではなく仔猫である。子供だってぐったりバスの座席に座っているようなこともあるし、じっとテレビを見ていることもある。偕の日常はバタバタしている/寝ているのデジタル式だ。起きている時は、稀に毛繕いをしているほかは、ありとあらゆる悪行三昧、あばれはっちゃきである。さきほども、椅子の背にかけておいたぼくのシャツを引きずりおろし、口にくわえて部屋の端まで引っ張っていった。その前は網戸に爪をたて、最上部まではい上り、方向転換して降りてくる(これはこわごわだけど)を何度も何度もくりかえしていた。

このエネルギーに絡まれるのだから、老猫には荷が重かろう。さぞうっとうしかろう。ストレスにもなるだろうと同情していたのだ。

そこで、なるべくなでたり声をかけたりするようにしていた。フォローしてるわけですな。時には度が過ぎる偕をしかりつけたりもしていた。蛙の面に小便ではあるのだが。

昨夜もずいぶんながく両者の対決があった。ぼくが晩酌をしている隣の椅子におとなしく寝そべっているコウに対し、偕が何度も椅子の下からアタックをかける。そのたびに恫喝と若干のパンチで防衛する。それが何度も何度も繰り返される。こっちはテレビを見ながら気分良く飲酒にいそしんでいるわけだから、これはたまらん。そこで時折両者にたいして「やかまし」と怒鳴るのだが、そのたびにコウはグニュグニュグニュというような声を出して抗議するのである。自分はなんも悪くない。なんとかしてくれよ、というようなつもりだろう。

しばらくするとずいぶん静かになった。偕のデジタルスイッチがオフになって、向かい側の椅子で眠り込んでしまったのだ。驚いたことに、それをコウが机の上の間近の位置からじっと見下ろしていた。

なあんだ、イヤがっているとみえて、そうでもないんじゃないか。ホントにイヤなら、静かになればせいせいするってもんだが、わざわざ近くでじっと見ていると言うことは、どこか楽しんでいる部分もあるんじゃないか。

両者の関係が考えるほど悪いわけじゃないかもということに安心したと同時に、コウに対する不憫の感情はほぼ霧散してしまった。

今日も今日とて、両者のバトルは続いているわけだが、ぼくはもう同情しないのである。勝手にやっとれ。
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