10 1年後の偕楽園
  [初出] 2005.08.09  [最終更新]  [平均面白度] 4.25  [投票数] 4  [コメント数] 0
この「スレッド」に書かなくなったのには理由があるわけではない。ま、なんとなく、ですな。で、なんとなくで1年がたってしまった。

偕楽園くんの最近の様子はいかが、というメールをいただいた。あ、そか。付記しておかないと具合わるいことがあったな、と気がついて、1年ぶりに書く。

偕はすこぶる元気です。むちゃくちゃでかくなった。4キロはとっくに超え、我が家の猫の中で、もっともデブになっている。抱くと、すべての力を抜いて長く伸びてしまう性格なので、すごく重い。よっぱらいを介抱するのと同じ伝である。

性格はきわめてよい。ぼくも猫については知らないではないけど、こんな鷹揚かつ温和な猫は初めてだ。名前を呼ぶと、いそいそとやってくるし、かといって、べたべたしてくることもない。

たとえばテーブルの上のものが落ちそうになったかで、なにかをキャッチしようと、人間がいきなり激しい動きをすると、猫というものは、ビビって逃げ出したりするものだが、そういう事態でも偕は泰然自若としている。

だいたい偕が怒ったのを見たことがない。姉猫たち(彼女たちはすこぶる偏頗である)に嵐を吹かれても、反攻するわけでもなく、なんだか困った顔をしているだけだ。

「男」としては、ぼくなんかよりも数等倍も立派である。かすかなジェラシーを感じるくらいだね。できれば、あーゆー男になりたいもんだ、と思う。

ただ、1年前には非常に人懐っこい猫であって、来客があると、そのスリッパの匂いを嗅ぎにきたりしたのだが、いまは誰か来ると一目散にどこかへ消える。

6ヶ月くらいのときに、去勢手術をしたのだが、それ以来のことだと思う。よっぽどその体験が堪えたんだろうとも思うが、それはちがって、飼い主の性向が「感染った」のだけかもしれない。

姿かたちも爽やかで(多少デブであることを除けば)、獣医をして、「最初はあんなにきたなかったのにねえ」と言わしめるほどである。獣医は客商売であるので、顧客の容姿風体を否定的に云々することはない。それがでてくるというのは、今の状態が否定辞を反語として通用するものだと自信をもっているからに他ならない。推して知るべし。けっして親ばかにあらず。

こういう猫であるから、ツマなどはもうメロメロである。時々「ああ、これが猫なで声というのだ」とはたとひざを打つような声で呼んだりしている。

ぼくだって、時には偕とも遊びたい。だから時には呼んで膝の上に抱き上げ、腹の毛をむしったりして交歓するのであるが、そうこうしていると、ツマが、

「ほら、本妻が見てるよ」

振り返ると、遠くでコウがじっとこっちを見ている。コホンコホンと偕を膝からリリースする。

大奥における将軍がいかに自制の日々を送っていたかということが判然と想像できる。

コウというのは、実に面倒くさい女であって、ミウミウと机の上に乗ってきたりするくせに、呼ぶと逃げるし、かといってほおって置くと当てつけにゲロを吐く。だから近くに来たときに、さっと掴んでじっと抱きしめなければならない。そうするとギャウギャウ怒りまくるのだが、それを無視してしばらく抱きしめていると、おとなしくなって、ゴロゴロいう。

毎回そのプロトコルを踏まねばならない。面倒くさいこと、おびただしい。

おとなしくなったころを見計らって、隣の椅子にそっと置く。隣の椅子とは、つまりはコウのための椅子である。こうした椅子を用意しなければならないことも面倒くさいが、仕方がない。コウは向こうをむいてじっと座っている。どうもその状況がいいらしい。

ぼくも仕事に戻れる。

しばらくはその平穏な時間が流れる。時には仕事の手をやすめて、ぼくもコウの耳をぐちゃぐちゃと触ったりする。うっとしいなあ、という顔で奴はこっちを振り返る。

しかし、その時間は長く続くわけではない。電話がかかってきたり、またはファックスや資料を取りに行こうとしてコウの椅子をまたいだりすると、コウはもうご機嫌斜め。キーボードのまわりをうろうろ歩いてミウミウ鳴く。はじめっからのやり直しになるのである。

ホント、うっとうしい女なのだ。
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