9 あえて小嶋さんを弁護するのだ
  [初出] 2006.02.04  [最終更新]  [平均面白度] 3  [投票数] 5  [コメント数] 0
昨年末の耐震偽装事件の発覚からこのかた、ぼくは建築主のひとりである小嶋社長が気の毒でならない。

昨日の新聞には神奈川県知事に「コペルニクス的ばかもの」と罵倒されたことまで掲載されていた。テレビのワイドショー(特に日本テレビのザ・ワイドは顕著であるように思えるが)でも、一貫して批判のメインターゲットであり続けている。

なんともはや、気の毒で気の毒で……。

この問題が発覚したとき、誰しもが思ったのが、これは組織的な犯罪であるにちがいないということだった。構造設計者が単独で耐震偽装の設計をしたところで、得られる利益というのはいかほどのものではない。だから、施工業者、建築主、はては検査機関までが共謀しておこなったものであるはずだ、と。

しかし、事件の詳細が明らかになるにつけ、この偽装の裏側に「組織的な悪意」というものが存在しないのではないかということがじょじょに見えてきた。施工業者や建築主が設計者に偽装を指示したわけでもなく、検査機関が故意に検査をねじまげていたわけでもないようだ。

(すくなくともぼくが)この事件に対する認識をかえたのは、国会で木村建設東京支店長が、「姉葉物件より鉄筋量のすくないマンションがいくつでもある」と表にして答えた時からだった。技術的な詳細は知らないが、報道によると、耐震偽装とは鉄筋の量を不法に少なくする事により建設費を少なくするために行われていたということだった。それなのに、国会で「鉄筋量がもっと少ない物件がいくつもある」と言い出すってことは、木村建設が姉葉設計士に不法に鉄筋量を減らせと指示したのではないんじゃないかと考えるのが自然だ。国会中継を見ながら、ぼくはそう思った(誰しもそう思ったんじゃないかな)。

そこで名指しされたどっかの設計事務所はその直後に「ウチはまともにやってる。調べてみろ。この事件はスキルがない頭のおかしい設計士がむちゃくちゃをしたということなんだ」という具合の挑戦的なコメントをしていた。これで決まりだな、とぼくは感じた。

ずいぶん後になってからだが、国交省がそれらの物件を精査して、そこには偽装がなかったこともあきらかにした。

ことここにおよんで、何も偽装をしなくても、偽装物件と同じ程度の鉄筋量で適法な建物を作る事ができるということが明らかになったわけだ。つまり、建設費を少なくするために、あえて偽装設計をする必然がないということである。

実際のところ、どうであるのか、ぼくにはわからない。彼らはやはり共謀していたのかもしれないとの疑いを捨てたわけではない。が、新聞やテレビで与えられる情報をみる限り、どうもそうじゃないと考えるのが、論理的にもっともすっきりする。

この頃からじゃないかな、小嶋氏がメインターゲットになったのは。気がつけば、いつのまにか、木村建設とかシノケンとかイーホームズという登場人物は舞台の上から見えなくなった(総研はまた別として)。

たしかに小嶋という男は、ブラウン管を通してみる限り、さして好意のもてる相手ではないし、言っていることもヘンなことが多い。かといって、極悪非道な人物には見えないし、彼にすべての責任があり、断罪してしかるべきだとも思えない。

小嶋氏は「最大の被害者は自分だ」と言っている。この発言に対しての風当たりは強い。しかし、もし、彼が偽装の共謀にかかわっておらず、偽装がなされていることをあらかじめ知っていたわけではないのなら、冷静に考えれば、最大の被害者であることは間違いのない事実だ。

偽装マンションを購入された方はお気の毒だ。しかし、彼らの失ったもの、失うかもしれないもとと比較しても、小嶋氏のそれより大きいわけではない。経済的な金額のたかでいってもそうだし、それに加えて、会社も仕事も名誉も自負も、そして家族まで剥奪されようとしている。

小嶋氏は道徳的な人物ではないかもしれない。しかし道徳とか人倫とかは、ここでは関係のないことではないのか。耐震偽装マンションを購入した住人の道徳性とか人格が無関係であるのと同様に。

現時点でのマスコミの論調では、耐震偽装の共謀をしたという疑いはほとんど触れられず、焦点は、何時それを知ったのか、そうしてその後、どのような行動をしたのかということになっている。

検査会社からそれを告げられた時に恫喝したとか、発表を遅らせてくれとか、「地震とかで倒壊してから発表しても遅くはないんではないか」と言った、とか。

でもなあ……。ぼくはこの一連の発言に同情的である。なにも「正しい」とは思わないが、やむをえないというか、よくわかるというか。ぼくが彼の立場だったとしても、同じようなことは言いそうだ。そりゃそうでしょう。巨額の資金を投入して行ってきた仕事の根本をくつがえすような事実を急に告げられたのだ。ウロもくるし、混乱もする。むちゃくちゃなことを口走るのも無理はない(逆にそういう支離滅裂な発言をしたということが、彼の無実性の傍証になるかもしれない)。

住民の方々はヒューザの破産を申請しているという。ヒューザを清算したところで彼らの被害額が十全に補填されることはないということは、別に財務諸表を見るまでもなく常識的に明らかである。

たとえば、ぼくが1軒の家を(耐震偽装でもなんでもいいから不法に)建築し、誰かに売るとする。当然、その売買でぼくは利益をえる。ここでぼくが破産し、清算して買い手に代金を返済するとして、買い手がその家の価値の全額を受け取れるのは、最低限の条件として、その売買の利益率が50%以上である場合だけだ。んなことはありうるはずもない。

にもかかわらず、こういう動きがでるのはなぜなんだろう。

小嶋氏にすべてをおっかぶせて、幕を引き、あとはお上の温情で救済(もどき)を垂れくだされるであろう、という構造にもっていきたいという、なんかの力が働いているんじゃないか?

なんかヘンだ。

小嶋さん。ビリキながら応援しとりますけん。
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