13 テレビの暴力性
  [初出] 2006.04.27  [最終更新]  [平均面白度] 4.47  [投票数] 15  [コメント数] 1
テレビっ子だからといってテレビを持ち上げるわけではないが、先日、イラクの場所も知らない国会議員の恐怖を見せつけてくれたテレビが、今日はテレビそのものの暴力性を暴露してみせた。

午後10時まえから、テレビ朝日で報道ステーションがはじまる。今日は耐震偽装事件関係者の別件逮捕があったので、それ関連のニュースが長時間放映された。

木村建設の篠塚元東京支店長も逮捕されたわけだが、報道ステーションでは、その逮捕直前の映像を流していた。

ジャージ姿で散歩する篠塚氏のまわりをスーツを着た十人ほどの男が取り巻き、一緒に歩いている。篠塚さんは、時折、横に歩いているスーツ男に笑顔でなにか話しかけている。

その姿をかれらの進行方向の向こう側から撮影している。つまり、この不気味な一行がカメラのほうに近づいてくるわけだ。

突然、カメラの側からマイクをもった男が飛び出し、散歩している篠塚さんにマイクを突きつける。「今はどういう気持ちですか?」「偽装マンションを購入した人たちに何か言うことはありませんか?」と矢継ぎ早に質問を投げつける。

篠塚さんは、相手のマイクを厳しい表情で握りしめ(口元に突きつけられるのを阻止しているのだ)、何も答えない。取材者はそれにめげず、次々と質問を繰り返す。

そのとき、わかった。散歩に同行していた不気味なスーツ集団は各社の記者たちであるのだろう。篠塚さんと、ある意味でコミュニケーションがとれている取材者の面々が、ともに散歩をしているわけだ。おそらく散歩同行取材者たちは、何も「篠塚サイド」に立脚しているわけではないだろう。まともな取材をするためには、少なくとも相手との間での人間関係を作っておくべきだと考え、それを実践してきた人たちなのだろう。

だから、篠塚さんも(心を完全に開いているわけでもなかろうが)、平穏な表情で会話を交わすこともできたんだろう。

テレビ朝日の記者は、そういうコミュニケーションがとれていないんだろう。彼にどんなかたちでも信頼されていないんだろう。篠塚さんは、取材されることを忌避しているわけではなく(それはとりまくスーツ集団にむけての表情でもわかる)、「テレビ朝日に取材されること」を厭悪していたのではないか。

しつこく質問を続ける記者に対し、とうとう篠塚さんは恫喝めいた一喝をかます。すると、記者はおおいかぶせるように「アネハさんにもそうやって恫喝したんですか!」。

誰かに無礼なことを聞く時には殴られることを覚悟しなければならない。殴られてもかまわないからという気持ちがなければ、聞いてはならない。この記者は礼儀の上では聞いてはいけないことを聞くわけだから、殴られる覚悟がなければならないはずだ。しかし、このインタビューはカメラの前でおこなわれている。つまり、殴るべき相手の手を縛ってから行っているインタビューなのである。

しかも繰り出す質問は、シロート考えでも、(もし篠塚さんが希代の悪者で、いろいろと悪巧みを積み重ねてきたとしても)答えが判りきったものだけである。氏は国会での証言をふくめて今まで一貫して耐震偽装に対する関与を否定してきている。散歩中にマイクを向けたら「ええそうでんねん。わてが偽装を指示しましてん」と言うとでも思っているのだろうか。決して思ってはいないだろう。

つまり、この「取材」は、何かを聞き出す目的ではなく、単に暴力を振るっているだけではないのか。

しかも、相手の両腕をしばったうえで。

ぼくはシロートであり、部外者であるので、ホントのとこ、篠塚さんのやったことがなんであるのかはよくわからない。しかし、一連の経緯のなかで、「篠塚が偽装を指示し、アネハがその指示に従った」という構図はどうも無理があるのではなかろうか、との疑念を感じている。もしかしたら指示したかもしれないし、指示してなかったかもしれない(どうも指示してなかったんではないか、と思えるけどね)。もし、取材者が「指示していた」との心証を得ているなら、その根拠を(トツゲキ取材などではなく)たんたんと開陳すればいいだけである。

ぼくはこのインタビュー(にもならんだろうけど)は、単にアタマ悪い、根性悪い、だけのものであるように見えた。違っているだろうか。

それがより明らかになったのは、時間的にその直後の「ニュース23」での映像だった(ほんと、ダメなテレビっ子ですね、ハシゴしてるんですから)。こっちの番組でも篠塚さんの映像を流していたが、それは、彼の自宅とか、どっかのホテルか喫茶店でのシーンとかで組み立てられており、その映像の中では、彼の揺れ動く気持ちとかが、にじみ出るように表現されていた。

「姉葉さんと出会う前に戻りたい。もしそこからやり直せたら、こんなことにはなっていなかったのではないか」

篠塚さんはそう言った。番組はその発言の紹介に続いて、「しかし、非姉葉の偽装物件があきらかになった」と続ける。つまり篠塚氏の言い分だけではなく、その言い分からはみ出ている部分もちゃんと伝えている。

こういう作業を取材というのだろう。報道と言うのだろう。ぼくらシロートの野次馬的印象を多角的にうがっていく。それがニュースと言うべきなのだろう。

今日のテレビ朝日のインタビューは記者としての特権を放棄した行動ではないか。あれだったら、ぼくでも今すぐにもできる。記者じゃなくっても誰でもできる。

いや、なにもね、TBSがよくってANNが悪いと言っているんじゃないです。場合によってはそれが逆転することもあるかもしれない。

でも、今日のテレビ朝日のような「報道」を繰り返していくと、報道に関するアパシーを蔓延させてしまうことになるんじゃないか(もう、だいぶそうなっちゃっているんだけど)。そうなれば、ぼくらはめちゃめちゃ不幸である。

ただ、このウンコ性をぼくらに明らかに見せつけたのが当のテレビ朝日の映像だったというところが、なんちゅーか、テレビの恐ろしいところであるとは思うのだが。

あ、考えたり書いたりしているうちに「今日」がもう昨日になっちゃった。ま、しょうがないからそのままアップすることにする。
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いただいたコメント

さわちゃんのパパ さんによるコメント
 全く同感です。篠塚元支店長は結局「粉飾決算」の罪に問われただけだし・・・



 もっと恐ろしいと思った事は、「篠塚元支店長の指示で姉歯が偽装という構図ではない」という報道をニュース・ステーションで流しながら、過去の自分達の取材の誤りについて、全く言及しなかった点です。(謝罪広告を出しても良い位なのに)



 (どちらかというと)反権力の立ち位置にある「朝日」が、何の権力も持っていない一個人に対する取材として、最低・最悪であったと感じました。

[2006.09.28  #380]

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