1 異次元へトリップできるクスリ
  [初出] 2005.02.17  [最終更新]  [平均面白度] 4.38  [投票数] 21  [コメント数] 2
昨年の偽温泉騒動は次々といろんなことが出てきて、野次馬としては非常に面白かった。

一連の騒動のなかでも、ひとつの山場であったのが、某温泉旅館に田中長野県知事が乗り込み、混入している薬剤を発見した場面であったことには異論がないと思う。なんで県庁の職員がいるときに、あけちゃいけない物置の扉を開くかなあ。あそこは彼らが帰るまで待つべきであったと思うのだが、もしかしたら形を変えた一種の内部告発であったのかもしれない。

それまでの経緯の中では、湯を白濁させるのにつかっていた薬剤はたしか「草津温泉ハップ」という名前であったように思う(いま、慌てて検索してみると、この商品は「倫理的な理由で」発売中止になったよし)。しかし、その旅館で使っていたのは「六一〇ハップ」であった。

これには心底驚いた。なんとなれば、この「六一〇ハップ」なる入浴剤は、我が家で長年にわたって愛用していたものであったからだ。

入浴剤ってのは、風呂の湯にナニかを混ぜ込むことである。それが何者であろうと、入浴後、下水に排水すると、ただの湯より下水処理に負担をかけるであろうことは想像に難くない。ほらよく「大さじ1杯の醤油を下水に流すと、それを魚がすめる程度にきれいにするには風呂桶3杯の真水が必要」っていうじゃない。入浴剤は醤油じゃないけど、もしかしたら醤油より強力かもしれんし、なにしろ、風呂桶1杯の入浴剤入りの湯を流すのだ。なんだかダメージきつそうだな、そう考えて、なんとなく入浴剤の使用を「倫理的な理由で」自粛していたのだが、そういうことに気が回るまでは、よく使っていた。自粛といっても、ガチガチの環境原理主義者ではないので、「いささか控える」というスタンス。

「六一〇ハップ」も一応入浴剤であるのだが、大メーカーが売っている市販のそれらとは、まったくレベルの違う商品である。なにしろ桁外れに強烈なのである。

ちなみに「六一〇ハップ」はムトーハップと読む。

livedoorのハンドセット

ザクロジュースと同じような色をした液体なのだが、これをキャップ2杯、湯に投入すると、みるみる白濁し、浴室いっぱいに鼻を突くような硫黄のにおいが充満する。ラベルにうたっているように、まさに「家庭温泉」化するのだ。


硫黄は毒である。あまつさえ活性の高い元素であるから、金・白金以外の金属とは強く反応して硫化物を作る。ラベルにも「ネックレス、指輪、ピアスなど、金属類は必ず取り外してご入浴ください」と明記してある。黒くなっちゃうし、錆びてしまう。ラベルにはなおも追焚付給湯器(循環式)には使用するなとか、浴槽が黒くなるだの、新素材の浴槽には使用するななどと書かれている。

これは冗談ではなく、使うと浴槽内の金属部分(たとえば排水口のまわりは金属になっているでしょ)は一気に錆びる。なかなか民生用として使うのは勇気がいるのである。

浴剤として使うだけでなく、もう少し濃い溶液を塗布したり湿布したりして使う用法も書いてある。何に効くのかというと、入浴の場合で「あせも、しっしん、水虫、にきび、ひぜん、ただれ、あかぎれ、しもやけ、荒れ症、かいせん、いんきん、たむし、冷え症、神経痛、痔、リュウマチ、腰痛。肩のこり、うちみ、疲労回復、産前産後の冷え症、くじき、うちみ」であり、塗布の場合が「水虫、たむし、いんきん」。湿布では「神経痛、リュウマチ」である。

実際に、入浴剤ではなく水虫治療のために使っている人を何人も知っている。なかなか効くとのことだ。効能のほどは確かなことが言えないが、この強烈な匂いと肌触りを知ると、ほんとに効きそうな気がする。

ぼくにとっての効果は、異次元へのトリップをもたらすということだ。

こころ疲れた夜更けなどに、六一〇ハップを規定量以上ぶちこむ。すると、まるっきりの日常のひとこまである入浴時間が、まるっきりの日常空間の一角である我が家の浴室が、いきなり異次元の時空と化す。これで電気を消してろうそくなぞにした暁には、もう、ホントすごい事になっちゃう。麻薬である。疲れもふっとぶし、クヨクヨした気持ちもなんだか晴れて来る。寒い夜なんかは、心から暖まるしね。

ただ、うちの浴槽は禁忌対象である追い炊き式である。金属のパイプ内を湯が循環し、そのパイプをガスで暖めることで湯温をあげる式だ。だから、うかうかしていると浴槽をだめにしてしまいかねない。

そこで、湯から上がるや否や、湯を落とし、即座に軽く洗い、あまつさえ、水を張ってしまう。つまり新しく水道水を張ることにより、浴槽表面およびパイプ内に付着しているであろう硫黄の濃度を薄めてしまうという作戦である。こんな大仰な後処理が待っていても、あえてそれを引き受けてもいいと思わせるのが、六一〇ハップのすごさなのだ。

まさに自己責任の世界なんだけど、こころ疲れた貴兄には、衷心よりおすすめ申し上げたい。

ただ、これはなかなか売ってない。まずこれは「医薬品」である(強烈でしょ)。だから薬局でしか販売ができない。しかし、ドラッグストアと呼称しているような今っぽいきれいな店ではほぼ見かけない。この町で39年薬局をやってます、というような老舗というか、いささかクタぶれた薬局においてある。そういう店にはなぜか店頭のガラス面に「オートムーゲあります」というポスターが貼ってある。オートムーゲとは一体なんだ?

つまり、これは年配者に人気の商品であるようなのだ。

ぼくのすんでいる街は、なぜか薬局過当競争地域なのだが、そのなかの1店、いちばん古くから営業しているところには、店頭のワゴンにおいてある。売れ筋と見える。

ただ、あのニュースの直後には、その薬局でも見かけなくなっていた。たぶんかつて使っていた人たちが、思い出して購入したため品薄になったのではないかと想像している。

だいいち、この記事にしたって、あの事件の直後に書こうとしたのだが、我が家には、残り少ない使いかけの六一〇ハップしかなく、それは全体に白いコナが吹いたような無惨な姿をしており、とうてい写真に撮れるようなシロモノではなかった。そこで再入荷を待っていた次第。

最近はずっと陳列されている。440g入りで325円であった。1回の(メーカー推奨)使用量は13〜17gというので、これは30回分である。異次元トリップに使うなら1年くらいは持つだろう。もっと頻繁に異次元トリップをせざるをえない場合は、会社をやめるかリコンするか心療内科に行くのがよかろうと思う。

なお、こいつに関するより詳しい情報は【洗いの殿堂】−【六一〇ハップ】にあった。勉強になりました(ただ、「ハップ」がハッピーを語源にしているというのはチガうのではないかと思うが)。
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いただいたコメント

せき さんによるコメント
去年は大いに六一〇ハップを楽しませて貰いましたですね、はい--石田さんからの指摘があるまでは誰もその有り難みをまったく認識していなかったのは、今となっては結構面白おかしい話であります。

あのきつい硫黄臭がとても温泉な感じで僕も好きですが、とてもじゃないが家で使おうとは思いません。



レースに出る競馬馬の世話の際にもこの六一〇ハップをジャバジャバ使うというのは100%真実の話ですが、何がどう良いんだか僕には全く判りません。

[2005.02.25  #158]

Firoswi さんによるコメント
私は36歳ですが、この年になるまで六一〇ハップを欠かしたことありません。あれは入浴剤ではなく、温泉そのもの!と言って過言では無いと思います。

あれを使うと、バス○リンやバス○マンなんぞを有難がって温泉気分!等と言ってる人々が信じられません。



どこに「ラベンダーの香り」の温泉がありましょうや!?

どこに「ブルーミント」の温泉があるっていうんでしょうかあっ!!



うちはいつでも硬派に六一〇ハップ!!



・・・9歳のムスコは、激しく嫌がりますが・・・。[2005.04.26  #173]

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